俺は親父に男手ひとつで育てられた。小学校の頃、
父親の料理が下手で嫌でたまらなかった。そんな
ある日、学校の遠足で弁当を持って行った。当然、
親父の作った弁当だ。俺は一口も食べず、弁当の
中身は捨ててしまった。
家に帰り、空の弁当箱を親父に渡すと、親父は涙
目になりながら俺の頭を撫でて、「全部食べて偉
いぞ、ありがとうな!」と嬉しそうに言った。
勿論、本当のことなど言えなかった。
その後、担任の先生から連絡があって、俺が遠足
で弁当を捨てたことがバレた。親父は相当なショ
ックで涙したけど、俺に怒鳴りはしなかった。
さすがに罪悪感を覚え、親父に謝ろうとキッチン
に行くと、ボロボロになった料理の本と弁当箱を
見ながら泣いていた。俺は、本当に自分がとんで
もないことをしたと自覚した。初めて泣いてる親
父の姿に逆に謝れず、自分の部屋に戻り、心の中
で親父に何回も謝りながら泣いた。
翌朝、勇気を出して弁当のことを謝った。親父は
俺の頭をぐりぐりと撫でてくれた。
それ以来、俺は親父の作った飯を残すことは無く
なった。
親父は去年亡くなった。病院で息を引き取る間際、
悲しさと寂しさで、涙を流しながら「色々ありが
とな、飯、ありがとな、すげえ美味かったぜ」と
言った俺に、親父は声も出せない状態の中、微か
に笑い頷いてくれた。
それ以来、弁当のことを思い出すたび切なくて、
泣きたくなる。
投稿者 愛知県 男性